怒っちゃいやね

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今日の話ではないのだけれど(それは日記なのか?)、仕事終わりの電車の中で、乗客同士が揉めている瞬間に出くわした。

最近は耳栓の代わりに音楽を流さずにイヤホンをつけているから、ちょっとくぐもった感じのその音が怒声であることに少しの間気が付かなかった。なんだろうと辺りを見回してみると、乗客は揃って視線をぼんやりと宙に浮かし、無関心であるという点でのみ結びついた団結感を漂わせている。

どうやら優先座席に座っている60歳くらいの男性が、その隣に座っている40代くらいのサラリーマンを叱っているらしい。

「お前、よくこう言われるだろ」「だからみんなお前のことが嫌いなんだ」

こうして文字起こししてみると、知り合い同士で何やら揉め事が起こっているように見える。しかしその声色からして、これは車内で突発的に起こった喧嘩であるらしい。

僕は他人が起こっている様子を見るのが好きだから(もちろん関わりがないことが前提)、ちょっとにやついたまま、その怒りに震える声に耳を澄ませる。乗客の多くは男が声を張り上げた瞬間にそそくさとその場から離れるから、野次馬である僕の視界も開けてくる。

五分ばかり様子を伺っていたのだが、何が原因で彼が憤っているのか、さっぱりわからない。手がかりすら掴めないのだ。というのも、その叱責はほとんど指示語ばかり。言い返しの声も聞こえてこない。ほとんど一方的に、「そんな風」とか「そんな奴」とか言われ続けている。

まあ最終的に、その男は捨て台詞を吐いて電車を降りた。だから喧嘩の原因もわからなければ、この日記にオチがつくこともない。ただ座席に残されたサラリーマンの沈んだ顔はよかった。大の大人が、本当に意気消沈、というかグデーっと力尽きて、その疲弊を全身で表現している瞬間などなかなかお目にかかれるものではない。お疲れ様です。 


父親がよく話してくれるエピソードがある。

電車内で、些細なことから年上の男と大喧嘩になる。長い時間やり合っているうちに、車内で声を張り上げるのも迷惑だからということで、適当な駅で降り適当な居酒屋に入る。そこで激論を交わしていくうちに、だんだん「お前もなかなかやるやんけ」的な感じに意気投合。話題が喧嘩から離れ、仕事の話とかになっていく。そこで互い共通の親戚がいることが発覚する。

つまり親戚同士が偶然同じ車両に乗り合わせ、そこでお互いのことを気に入らないと思ったことになる。

喧嘩から始まる関係性というものもあるらしい。とはいえその親戚とその後親しく付き合ったという話を父親から聞くこともないから、やっぱりそうでもないのかもしれない。

まあ本当に結論がない。まあみなさん勢いよく喧嘩してください。喧嘩が始まったら僕にご一報をお願いします。

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いつもより少し長く仕事をした。そういう日は喫茶店に寄らず本屋をぶらつくのが常になっているのだけれど、最近それで本ばかり買っていて出費がかさんでいるのでそのまま家に帰る。 マラマッドの短編集と、『ニューメディアの言語』を今は読んでいる。後者はもう一ヶ月近く読んでいて、ちょっと飽きてきたところ。中盤くらいになると、言葉が上滑りする時期が必ずやってくる。ちょうど今がそれ。あとは読書会で読んでいる『力と交換様式』と『物質と記憶』。ベルクソンはもう一年近く読んでいるのだけれど、なかなか進まない。別に焦る必要なんて何もないし、ゆっくり読むのに最適な本だからそれで構わないと思う。 異常エクセルを作る仕事をしている。結構楽しいのだが、あまり意味のない細部に時間を費やしている気もする。多分仕事ができる人間が見たら、もっと本質的なところに時間を使えと僕を叱るだろう。 同僚は僕のことを気取った文章を書くやつだと思っているらしい。これは悪口。まあその節はあるし、別に構いやしないけれど。それに気取った文章を書いている自覚はある。 鬱蒼と茂る森の中で、すべての倫理的判断を投げ捨て、昨晩あらたに生まれ変わったはずのラシーヌは、瘡蓋のように白い黴がべったりとまとわりついた朽木の背後に、枯れ葉が焦げるような匂いを嗅いだ。 一回生くらいに書いた怪文書の冒頭。ダウンロードフォルダの奥底で眠っていた。あまり記憶はない。厨二病にかかるのが、僕はだいぶ遅かったのだと思う。 洗濯は国民の義務ではない。 二日酔い小説に憧れていたらしい僕が書いた謎の一節。不健康怠惰に憧れる時期が、どうして二十歳前後で訪れるのか。 日記を書くのに困ったら、過去の怪文書を引っ張り出してこようかしら。結構ガチのマジで恥ずかしい文章が思いのほか沢山ある。 ちょっと疲れているので、一旦ゆっくりしよう。じゃないと日記も無意味な引き伸ばしばかりになってしまう。だって今日書いた内容ほとんど書いたもん、ここ二週間で。 ロシアに行った時、毎日のようにビールを飲んでいた。空き瓶を並べて楽しんでいた日を思い返す。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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