カード決済をする勇気

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昼ごはんにローソンで麻婆丼を購入。

職場にも電子レンジがあるのだが、普通のやつなので温めるのに時間がかかる。今日は列も並んでいないから、1600wの電子レンジで素早く熱々にしてもらおうと決める。

その間に会計。いつも通りクレジットカードを取り出し、差し込み口に入れようとすると、カードにWi-Fiのようなマークがあることに気がつく。最近新しくなったばかりで気がついていなかったのだが、タッチ決済用のマークと考えるのが妥当だろう。

「カードでお願いします」と告げてから数秒間、そのマークをじっと見て思案する。当たり前のごとくタッチをして、「それタッチ決済できないですね」と言われるのは恥ずかしい。とはいえ挑戦を先延ばしにして技術の進歩を享受しないのは、時代についていけなくなった老人との誹りを受けても仕方がない。

電子レンジに麻婆丼を入れ、再び僕に正体した店員が怪訝な表情で僕を見つめる。カードを持ったまま、しかめ面で固まっている男に不信感を抱いているのだろう。それに気配で察するに、僕の後ろには新しく一人の客が並んでいる。

大体恥ずかしいからなんだというのだ。会計がスムーズにいかなかったからといって、別にそれで僕のことを軽蔑する人間などいないはずだ。僕は勇気を出して、そのカードをカードリーダーの上にそっと置く。

一瞬で決済が終了した。そうして僕は新しい技術を自分のものにしたのである。購買意欲もマシマシである。


そういえば一緒にサラダチキンも買ったのだった。食べるのを忘れて職場の冷蔵庫に入ったまま。

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諸々紛失事件から数日が経ち、現代人として辛うじて生きていけるくらいには生活を取り戻したので、しばらくお休みしていた日記を復活させる。 カウリスマキの『過去のない男』を見た。暴漢に襲われ記憶喪失になった男の物語。 過去の記憶なんて失われたままでいい。汚いコンテナを磨き上げ、ジューク・ボックスと小さな机を配置してささやかな晩餐会場に仕立て上げる彼の姿を見ていると、そこには一切の絶望を排した純度100%の希望があるような気がする。 生活を取り戻すのではなく、手探りで新しい人生を始めていくこと。カウリスマキにとって、過去は未来への希望に制限をかけるようなものなのかもしれない。過去の記憶なんて、失われてしまった方がいい。 映画を自分に引きつけて受容するなんて野暮だと思っていたけれど、財布とスマホを失くし、ほとんど社会生活から引き離されてしまった僕にとって、こんなにドンピシャな映画を引き当てたのはある種の奇跡だと思う。 しかしカウリスマキの希望に達するには、僕の失ったものはあまりに些細なものでありすぎる。これではまだ生活を取り戻そうとしてしまう。2年くらい前にひどく落ち込んだ時に、その落ち込みが極限を迎えた数分後には結構明るい気持ちになっていて、まだ絶望が足りないのかと落ち込んだことを思い出す。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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