西洋かぶれは安上がり

article

ポンコツゆえに少し残業をしてしまい、時間的にも気力的にも自炊をする気にならないので、弁当でも買おうと思いスーパーに立ち寄る。

半額弁当を期待するものの、棚はもうスカスカ。残っているのは空豆の天ぷらや焼き豚など、おつまみにしかならなそうなものばかり。インスタントラーメンに野菜でも入れるか、と食べたいものと実際に作ることのできるもののちょうど中間を探り当てるべく頭を悩ませていると、ふと良い考えが浮かぶ。

パック寿司だ。

閉店間際で安くなったパック寿司を、高級寿司店の紹介動画を横目にパクパクと食べよう。僕が昔からよくやっている(そしてよく言及している)ライフハックの一つだ。

とはいうものの、弁当が売り切れている時間にパック寿司が売られている保証はない。むしろ弁当と同列のものとして、あの冷蔵棚も綺麗さっぱり空っぽになっているに違いない。

そう思いながらのんびりとスーパーを一周し、少しばかりの野菜と果物をカゴに入れて寿司のある場所に向かう。

ずらっと並ぶ寿司たち。1100円の寿司が半額。600円の寿司は三割引だ。

さてどうしようか。疲れ切った頭であっても、前者は550円、後者は420円であることくらいわかる。いつもなら確実に前者を選ぶ(僕の悪いところはこういうところにある)のだが、目を凝らして見てみても、両者の違いはあまりわからない。

お得感に負けて散財をする悪癖とはもう卒業しよう。そう考えて安い方をカゴに入れてニンマリとする。上手に節約ができた時の気持ちよさは何にも代え難い。

閉店間際ということもあってか、レジ打ちをしている店員が少なく、稼働している二つのレジの前には長い列ができている。今日は洗濯もしなければならないので早く帰りたいと思うが、こればかりは仕方がない。

列が進むのをじっと待ちながら、手持ち無沙汰の人間を釣るための商品に目をやる。騙されてはいけない。1100円(550円)の寿司に対する欲望に打ち勝ったのだから、ここでスーパーの戦略に乗せられるわけにはいかない。ビーフジャーキーなんて食べたくないさ、と自分に言い聞かせながら、ひたすらに待ち続ける。

ふと向けた視線の先に、西洋わさびが110円で売っている。確かに安い気がする。昔見たイタリアンの動画で、オリーブオイルに西洋わさびを溶いてちょっと醤油を垂らしたドレッシングの紹介があったことを思い出す。あれは美味しそうだったな。パリッと新鮮なレタスとトマトにかけて食べたら最高だろうな。

いけない。このカゴには新鮮なレタスもトマトも入っていないし、冷蔵庫にある野菜はニンジンだけだ。西洋わさびを使う機会なんてしばらくやってこない。使わないものをカゴに入れさせるのが、小売店の憎たらしい戦略であることくらい十二分に承知しているではないか。

しかし。

今カゴに入っているパック寿司。この寿司に、わさびは入っているだろうか。わさびも醤油も入っていない寿司を握らされてイラッとしたのは、この街に住み始めてからのことではなかったか。

西洋わさびの横に、ちょっといいやつっぽいわさびも並んでいる。280円。パック寿司を美味しく味わうために、わさびの力を借りたい。むしろ新鮮さから遠く離れた割引済みの寿司をごまかすためにも、わさびくらいはちゃんと美味しいものを付けたい。

列はどんどん進んでいく。さっきまで動きがなかったのが嘘のようだ。ああ。早く決断しなければ——。


寿司にはわさびをつけた方がうまい。洋風わさびなんて使うのは西洋かぶれだ。

article
ランダム記事
仕事終わりに寮に住んでいた頃の後輩とお酒を飲んだ。なんとなく神田で、ジンギスカンのお店に入る。 やはり生活の中に談話室が欲しいと思う。たまたま居合わせた友人と喋ったり、自分では絶対に選ばない漫画を読んだりする緩やかな時間が恋しい。それはかつての生活が既に思い出となったから覚える感慨なのかもしれないけれど、やはりその時間を共に過ごした人と再会すると、それだけではないと思う。 そういえば寮のイベントでジンギスカンを食べる会があったのを思い出した。100人くらいの人が集まっていた気がする。火力が弱くてなかなか肉が焼けず、そのくせ腹をすかせた若者が集まっているから、十分で一切れくらいしか食べられなかった。氷水の入ったゴミ箱みたいな大きな水色の入れ物に、ビールやらほろ酔いやらコーラやらの飲み物が浮かんでいて、僕たちはガヤガヤと無意味な会話を無分別に繰り返し続ける。なつかしい。 学生の人間関係は変転を繰り返すから、部外者の僕が記憶の中で固定した相関図はもう現実のものではないのだろう。 いろんな話を聞いた。みんなそれぞれの道で頑張っている。僕も頑張れねばと思うが、仲間が欲しい。偶然生涯の相棒を見つけるようなイベントは、この先僕の身に起こるのだろうか。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

コメント

タイトルとURLをコピーしました