結局通販ばかり

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引っ越しの日。母親と車で新居へと向かう。三連休の初日ということもあり、高速はかなり混んでいた。

着いたらすぐに、引っ越し業者がやってくる。クロネコヤマトの単身パック。容量が既に決まっているサービスだから、入り切らなかったものは車に詰めて持ってきた。業者は業者の、僕は僕の荷物を交互にリズムよく運び入れる。

ヤマトが帰ると、すぐにガス会社の人がやってくる。入れ替わりのタイミングが素晴らしい。

組み立て家具を母親と一緒に組み立て、大まかな部屋の形が見えてくると、机とか照明とかその他諸々の家具を探しにニトリに向かう。まあこれでいいか、と妥協しながら机をいくつかピックアップするが、どれも商品が店にないらしく、取り寄せになってしまう。それならわざわぜ実店舗に来た意味がないな、と若干苛立ちながら、雑多に必要な家具を買っていく。ニトリの店舗は市場ではなくショーケースなんだな、と思う。そういうビジネスの形があることは知っていたし、それが戦略であることはわかるのだが、なんとなく腹立たしい。早いうちに机を部屋に置きたいという僕の狙いが、ニトリのスタイルとは相入れなかったというだけなのだけれど。

結局机はAmazonで注文した。机にはほとんどこだわりがないから、それで十分(であってほしい)。あとドライヤーとかコーヒーを淹れるのに使う器具をいくつか。洗濯機より先に買うべきものではない気がするが、僕の悪い癖で、必需品をどんどん後回しにしてしまう。

プロジェクターのコンセントを忘れてきてしまったことに気がつく。これではなんのために一人暮らしを始めたのかわからない。それに部屋は狭いし長方形だから、配置的にも僕の今持っているプロジェクターでは満足な映像が投影できない気もする。壁に斜めに投射しても、ちゃんと四角い画面を映し出すことができるプロジェクターが欲しい。お金はないが、洗濯機にかけるお金を節約すれば買える。が、流石にそれはまずいか。とっとと金稼ぎをして、狙いのものが買えるだけのお金を貯めなければ、と思う。

夕飯はなんとなく、近くのデニーズで済ます。ちゃんと自炊をして、節約をしなければならないのに、些細な散財をしてしまう癖がやめられない。これもよくない。外食を控え、本を買わずに、新しいプロジェクターを買うだけのお金を貯めたいと思う。

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友人と近くのスーパー銭湯へ。3000円近くするせいか、提供されるすべてのサービスを楽しまなければならないような気がして、忙しなく色々なお湯を点々とする。 いつもはあまりサウナを好まないのだが、そういう理由もあって挑戦。十畳くらいの空間に、大の男が十五人くらいひしめきあっている。サウナだから実際にも暑苦しいのだが、光景そのものもなかなか暑苦しい。 ガリガリの身体をさらに細めながら、「すみません」と小さく呟いて奥の方へ入る。二段になっている座り場の高い方に腰を下ろす。サウナの中にはテレビがあり、半数くらいの人たちはその画面に視線を向けている。残りの半分は、タオルを顔に巻き付けてじっと下を向いている。 すぐに身体が熱くなってくる。とはいえ僕がサウナに入ってから、まだ入り口の扉は開いていない。「もう出たいな」と思うのだが、ここで席を立ったら未来永劫軟弱者との謗りを受けることになるだろう。下を向いて苦悶の表情を押し隠しながら、時間が経過するのをひたすらに待つ。 どれくらいの時間が経っただろうか。僕の右斜め前に座る男性が立ち上がり、小さく伸びをしてサウナを出ていく。それにつられて四、五人が一斉に起立し、そそくさと灼熱地獄を後にする。忍耐力とは、見栄と忖度の連鎖であるとの確信を強くする。 二段になっている列の低い方に座っていた数人が、人の消えた間隙に腰を下ろす。空いたスペースに人がはまり込んでいく姿はまるで逆テトリスだ。流動する人たち。その流れに乗じて、つとめて余裕綽々な顔を作りつつ、僕もサウナを飛び出す。 休日のスーパー銭湯。いかにも休暇と呼ぶべきその時間であろうと、そこには悪しき「男らしさ」や競争原理がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。僕はどこで休めば良いのか。そんなことを考えながら、リラックススペースのソファーで背もたれを限界まで押し倒し、「よつばと!」を読む。二巻くらい読んだところで心地良い睡魔が襲ってきて、その生理的欲求に抗うことなく目を閉じた瞬間、これが正しい休暇であることを悟り、なんとしてもこの空間を守らねばならぬと決意する。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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