色の体験

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国立西洋美術館で開催されているキュビズム展に行く。

【公式】パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展―美の革命
国立西洋美術館にて2023年10月3日~2024年1月28日開催

20世紀初頭の芸術運動であるキュビズムの源泉がセザンヌに見出されることを知って「へえー」となった。美術史にはかなり疎いのでこんなことは常識なのかもしれないが、写実的でも表現的でもないセザンヌの構築的な筆触が、事物を断片化/再構築するあのキュビズム的な絵柄に繋がっていくというのは面白い。美術史もきっちり勉強したいと思う。

フランティシェク・クプカという作家の「色面の構成」という絵が良かった。こちらを見ている女性の身体の上にいくつものレイヤーが重ねられているようでありながら、その女性の肩から右下に降りてくる色面もまた一つのレイヤーを構成しており、その交錯が上面/下面の関係を破棄しているような感じ。適当なことを書いてみたが、まあ色味が好きだったということに尽きるのかもしれない。

美術館に行くと、どうしても価値というものを考えざるをえない。前にも書いたことだけど、流れ作業で情報として絵画を見るくらいならば図録を買う方が手っ取り早い。しかしそれでもやはり人は美術館に来るのであって(実際かなり混んでいる!)、人は体験を求めているのだと結論づけることもできるのだろうけれど、本当にそれだけなのか。というより、体験とは何なのか。この絵を実際に見たことがあるということ——これは情報なのか、体験なのか。よくわからない。

スタンプラリーについて考える。あれは空白をスタンプという情報で埋めていく作業(=情報を漏れなく回収する)なのか、スタンプを埋めていくという体験を意味するのか。

ある特定の情報を漏れなく回収したいという欲望はおそらく今の時代を象徴する欲望の種類なのだろうが、しかしこれは情報を漏れなく記憶したいという欲望ではないことがミソだと思う。全てが揃ったスタンプラリーに比べて、あと一つで揃うはずだったスタンプラリーの方が、僕たちの記憶に残るものであることはいうまでもない。


カウリスマキの『枯れ葉』を見た。天才や。ほとんど静止したままバンド演奏を見ている人たちの姿を見ると、ああカウリスマキだと思ってしまう。もともと抜群にショットが決まるタイプの監督だとは思っていたけれど、今回がベストではないか。

いいものを見た。あと色がいい。運動ではなくて、色。

映画『枯れ葉』公式サイト
アキ・カウリスマキ監督最新作 2023年12月15日(金)ユーロスペースほか全国ロードショー
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最近文章を書く際にnotionを使ったりする方法を色々試していたのだけれど、その流れがガシッと決まらない。そのせいで実際の執筆がなかなか捗らない。これはちょっとまずい。 とりあえずの書く流れを、仮決めでいいから固定しないといけない。というわけで、今日は日中その執筆フローについて手を動かしながらずっと考えていた。 今の問題点は、選択肢の多さが実際の執筆を妨げているということだ。notionを触るのは楽しい。しかしその楽しさが、ついつい文章そのものではなくDBやレイアウトの構成だとかを考えてしまうことにつながっている。 それはWordに直書きする時にも感じるモヤモヤでもある。千葉雅也は制約という言葉を用いて、似たようなことを色々な場所でしばしば述べている。 言葉だけに集中する時間を作ること。そのために、とにかく書くことだけに集中できる環境を構築すること。 ちょっと整理。文章を継続的に書いていくには、大まかに以下の五段階を経ることになる。 アイデア出し 構成立て 執筆 編集・校正 データの整理 これらそれぞれの過程を、一つ一つそれに適したサービスにあてがう必要がある。 これまで僕は編集・校正のプロセスを除いて、残りを全てnotionで行おうと考えていた。それができれば、作業場と情報が蓄積する場が一致するので、単純に気持ちがいいし、効率的だ。 しかし先に書いた通り、notionはあまりにも多機能だ。それゆえただ文章を書けばいい時でも、余計なことばかり考えてしまう。 そこで僕はアイデア出しと執筆の過程を、別のツールで置き換えてみようと考えた。まあ考えたというより、そうすべきだという意見を目にした、というのが実情にあっているのだが。そこで試しに昨日からUlyssesなるテキストエディタを使っている。これはほとんど文章を書くことに特化したソフトで、潔さがいい。 しかし問題はある。これはnotionで完結させた場合にも生じる問題なのだけれど、結局Wordで文章を仕上げる場合、Ulyssesで書いた文章もWordの形式に変換しなければならない。大して工夫のいらないレイアウトならUlyssesのエクスポート機能を用いれば全く問題ないのだけれど、脚本とかいうややこしい形式を備えた文章ではなかなかそうも簡単にいかない。 で、今日はそのフローについてじっくり考えていたわけだ。とりあえず、いい感じの流れはできた。まあこれは結構ややこしいので、ちゃんとした記事にまとめたいと思う。そうしないと忘れてしまうし。 ともかく、流れができたのは良かった。執筆の流れみたいなものばかり考えて、結局何も書いていない、みたいなことになったら悲惨だし、しばらくはこのフローで色々と書いてみようと思う。とはいえ、形式にこだわりすぎないようにはしたい。大切なのは執筆の流れではなく、書く内容の面白さなので。 中途半端だけど、今日はもう寝ます。明日は仕事。ともかくしっかり寝て、色々と整理したい。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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