贅沢なカレー

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ゆっくり起きられる日も今日が最後かと名残惜しさを覚えつつ、十時くらいに寝床から這い出す。簡単に日記を書いて、コメダ珈琲へ向かう。デカいカツサンドを食べ、デカいコーヒーを飲むながら川上未映子の『黄色い家』を読む。

隣の席にやってきたおじいちゃんが、頼んだコーヒーに一口も手をつけず十分くらいで席を立った。本当の贅沢とはこういうことなのだと思う。

三連休はじっくり休むつもりだと腹を決めていたから、ダラダラとネットサーフィンをしている時間にも罪悪感があまりない。今日はどういう一日にするのかを決めてからその一日を過ごすことが、幸福につながっていくのだという当たり前の事実を再確認する。

カレーを大量に作る。一人暮らしをしていたのは合わせて四、五年くらいだが、まともにカレーを作ったのはこれが最初だ。大量に作ってしまったポトフに飽きがきてカレー粉を入れたことはあるが、最初からカレーを作るぞと決めてかかったことはない。カレーは好きなのに、なぜなのだろう。

小さい頃、好きな食べ物といえばカレーを挙げる同級生が大半を占めていた時期に、僕はカレーを一番好きな食べ物だと思っていなかった。父親が取引先からもらってくるアワビの煮付けが一番好きだった。そのことが関係しているかとも思ったが、カレーを作らない理由は多分根菜の調理がめんどくさいからだ。

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ここ数年、構成なるものにずっととらわれている。論文には論文の、映画には映画の、短編小説には短編小説のベーシックな構成原理というものがあって、それは各形態ごとに異なりながらどこかで共通しているような何かで、その定義を述べることはできないにせよ、経験的に僕はかなりの程度正確にその有無を把握することができる。少なくとも自分ではそう思っている。 ただし、他人の制作物にあれこれ文句を垂れることはできても、自分がそれを実践しようとするのは話が別だ。むしろ把握してしまうという事実が、僕を制作から遠ざけてしまうことが多々ある。端的に言えば、自分が書いているものに、僕はその原理の不在を見出してしまうのである。 仕事で提案書を書かなければならなくなり、慣れないパワーポイントを使いながら、僕は文章を書いたり写真を貼ったり図形を配置したりしている。しかしその実践の途上で、僕は今目の前にあるそれが提案書の構成から逸脱していることに気がつき、手を動かすことができなくなってしまう。 これは論文なり脚本を書いている時にもしばしば起こる現象で、かつて僕はその原因を「構成しか考えられなくなる状態」に見出した。構成を意識しすぎるあまり、そこからはみ出す饒舌を許すことができないのだ。悪しき完璧主義者がまたしても顔を出すのである。 東浩紀やチェーホフを読んだりすると、自分の構成能力の低さに辟易として、ほとんど筆を投げ出してしまう。彼らは構成が文体に先んずるような書き手である。 一方村上春樹や蓮實重彦を読むと、むくむくと書きたいという欲望が迫り上がってくる。僕にとって彼らは、文体が先にありその後に構成がくるタイプの書き手である。過剰な比喩であったり接続詞を多用する長大なセンテンスであったり内実は様々だが、そこに書かれている文章はあくまで文体におけるリズムを統一するためになされた技巧である。 僕は明確に後者の側に属する人間であるような気がしている。しかしそのことをわかっているくせに、僕には構成を先に決めて書き出すことが書き手の責務であるかのように思えてしまうのである。結果として冗長さは失われ、僕はほとんど文章を書くことができなくなる。というよりもむしろ、全く頭が働かなくなる。 パワポというものは、ほとんど構成がそのまま形になったような表現形態である。当たり前だ。要点をまとめることがスライドなるものの主眼であるからだ。そこに文体なるものは必要とされないばかりか、過剰な比喩など忌避されて然るべきだという風潮は根強い。文体上の挑戦など、ただの格好つけとしてしか認められない。あくまで求められるのは骨組みである。 しかし、僕にとって文体というものは格好つけなどでは到底ない。むしろ僕が冗長に文章を綴るのは、端的にそうとしか書けないからなのである。例えば今日の日記で僕がお堅い文体を使っているのも、ただこうして書くのが書きやすいからなのだ。何らかのリズムに身を任せて思わぬところに文章を運んでいくこと——それだけが僕の得意なことである。 ならば僕はもう、そうした自然発生的な文体の要請に、素直に従っていくしかないのだと思う。それこそ制度として強権的に変じた構成なるものの抑圧と格闘する唯一の道である。 蓮實重彦はどんなスライドを作るのか。そんなことを考えたりするのも面白い。 こんなふうに書くのも久しぶりだけれど、楽しい。賢そうなふりをする文体である。実際は適当に書き殴っただけ。ぐちゃぐちゃです。文章も僕も全部。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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