一人でコンビニに行くのは寂しい

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23時すぎ。昨日から読み始めたアンドレイ・クルコフの『ペンギンの憂鬱』を読んでいると、いつも常備している2ℓの水がなくなってしまう。

口が寂しいと作業をしたり本を読んだりしてもあまり集中できない性質なので、まだ眠くないこの夜を引き延ばすためにも是非とも水が欲しい。今日はリモートだったので全く外に出ていないし、ちょっとは散歩をした方が良いような気もする。

ただシャワーも浴びてガッツリ寝巻きの状態。わざわざ外出するのは億劫だし、夜に追加の花粉を浴びるのはあまり好ましくない。

どうしようかとしばらく迷っていると、いつの間にか本には集中できていない。変にスマホを触りだしてしまって、適当な人物のWikipediaを読み流している。このまま大久保利通の人物評価を読んでも仕方がないだろうと思い、ようやく重い腰を上げて部屋を出る。


今日は大学の卒業式だったらしい。僕が京都を去って、ちょうど一年が経つ。幸運にも学年を問わずに友人を持てたおかげか、これからも京都に居座ってくれる人がまだ残っているわけだが、ただその数は減っていく一方だ。

ひとりコンビニへと向かう夜道を歩きながら、誰かの買い物に付き合ってガヤガヤと丸太町通を練り歩く集団のことを思い浮かべたりした。

体調もだいぶ戻ってきた。

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京都で一人暮らしをしていた頃によく行ったラーメン屋を訪れると、券売機のところで二人組の男女が楽しげに声を掛け合ってラーメンを選んでいる。おそらくは職場の先輩後輩で、最近付き合い始めたばかりという感じ。女性の明るい笑顔が眩しい。 えー、どれにしよっかな、と高い声を上げながらボタンの前に手をかざし、あ、でもこっちもいいな、とその手を離す。好きに決めなよ、と先輩らしき男が女性の肩に手をかけて励ます。そうこうしているうちに、投入していたお金は吐き出されてしまう。出てきた小銭を再び注ぎ込むと、どうやらその中にキラキラと輝く新しい五百円玉があったらしく、最近新しい五百円玉集めているんです、と女性が言う。え、戻そっか、と男性は答えるが、別に大丈夫です、と女性は返答して小さく笑う。 後ろに僕が並んでいるのに気がついたのか、ふと男性は振り返って、お先にどうぞ、と僕に話しかける。でも別に急いでいるわけでもないし、たかだか数分を節約して席につく理由なんてないから、全然気にしていませんよ、と無理に笑顔を作って適当に返答する。 でもこのラーメン屋でそんなに悩む余地なんてあったっけ、と思う。ラーメンとつけ麺がベースの選択肢で、そこにチャーシューを入れるかどうか、程度の選択を迫られているにすぎないはず。別に(本当に)いつまででも選んでくれて構わないのだけれど、でも何に悩んでいるのか気になってくる。 ふとその券売機を眺めてみると、いつもはばつ印がついている「限定」のボタンが赤く光っている。その横に手書きのPOPみたいなものが貼られていて、黒いマジックペンで四種類のまぜそばの名前が書かれている。何度も通ってきたはずなのに、一度も見たことがないまぜそばの選択肢に、特製ラーメンにしようと固く決め込んでいた僕の心は微かに揺れる。 そんなことをちょっと考えていると、気がつけばカップルは二人とも食券を手に入れたらしく、男性が店の扉に手をかけている。僕の後ろには誰も並んでいないのだから、先の二人よろしく長考でもしてやろうかと一瞬考えてみるが、結局「限定」ボタンを押すことはできず、最初から腹に決めていた特製ラーメンの食券を購入して店に入る。 行き慣れた店の新しいメニューを選択できないということが、京都にいられる時間の短さを象徴しているような気がする。無限に続くと思われた京都での日常がまだかろうじて残っているような気がしていたのはただの幻想で、僕はもう過去の思い出を反芻することしかできない。 数ヶ月ぶりに京都にやってきて、これが最後の「帰省」になると確信したのが数日前だが、僕はとっくの昔からただの旅行客だ。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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