伸び切った髪の毛は無限の可能性を孕みもつ

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散髪をする。

引っ越してからは行きつけの美容院なるものが存在しないので、髪を切ろうと思ってから判断すべき要素がひとつ増えてしまい、元来の怠け癖とも合わせて長期間にわたり髪の毛が伸ばし放題になっていた。こういうのは思い立った瞬間に予約をするか、誰かに宣言をする以外の方法で実行に移すことはできないと思い、週末に散髪をすると同僚に言う。

しかし結局髪を切るためには予約をするのがベターであり、案の定その予約が億劫になってしまう。そうこうしているうちに、何の予定もなかったはずの土曜日もとうに半分が過ぎており、こりゃいかんと思い突発的に水色の看板が頭に浮かんだ近所の美容院に電話をかけると、二十分後なら予約ができるという。

二つ返事でその申し出を受け入れ、慌てて着替えと歯磨きを済ます。念の為現金をいくらかおろし、ほとんど毎日通りかかっている美容院の扉を叩く。

ちょっと待っててくださいね、と言われ入り口近くの席に腰をおろし、無造作に置かれた雑誌を適当にめくっていると、髪型に関するプランを全く持ち合わせていないことに気がつく。何せ予約の電話をかけてから二十分しか経っていないのである。ボサボサの髪の毛は無限の可能性を孕みつつも、その可能性が僕にありもしない幻想(突然モテモテになる!)を抱かせる。僕の人生がどう転ぶかは、この選択にかけられている。

縛ることを想定した長髪にするべきか。あるいは若い頃のリアム・ギャラガーのようにサラサラの髪の毛を下方に垂らすイメージで頼んでみるべきか。髪を洗ってもらいながら、いろいろな著名人の顔を浮かべてみるが、どの髪型も等しくカッコ良いように思えてしまい、なかなか決定することができない。

このシャンプーの間に思いつかなかったら、いっそのこと思い切って短い髪の毛にしてしまおうと決める。しかしリアムが連れてきた連想に導かれて、Oasisの曲が頭にうるさく響いてくる。髪型のことを考えるべきなのに、リアムの(時にノエルの)歌声が僕の思考の邪魔ばかりをしてくる。


結局具体的なプランが浮かぶこともなく、ヘアカタログを見ながら結構短めの髪型(指差した髪型は「ショート」のカテゴリーにあった)を美容師に伝えたら、「でもせっかく伸びた髪の毛がもったいなくない?」と言われてしまい、それなりの長さの髪型に落ち着く。折衷案的だが、しかし十二分に頭は軽くなったし、なんだか明日から体調良く過ごしていけるような気がして嬉しい。

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昼ごはんにローソンで麻婆丼を購入。 職場にも電子レンジがあるのだが、普通のやつなので温めるのに時間がかかる。今日は列も並んでいないから、1600wの電子レンジで素早く熱々にしてもらおうと決める。 その間に会計。いつも通りクレジットカードを取り出し、差し込み口に入れようとすると、カードにWi-Fiのようなマークがあることに気がつく。最近新しくなったばかりで気がついていなかったのだが、タッチ決済用のマークと考えるのが妥当だろう。 「カードでお願いします」と告げてから数秒間、そのマークをじっと見て思案する。当たり前のごとくタッチをして、「それタッチ決済できないですね」と言われるのは恥ずかしい。とはいえ挑戦を先延ばしにして技術の進歩を享受しないのは、時代についていけなくなった老人との誹りを受けても仕方がない。 電子レンジに麻婆丼を入れ、再び僕に正体した店員が怪訝な表情で僕を見つめる。カードを持ったまま、しかめ面で固まっている男に不信感を抱いているのだろう。それに気配で察するに、僕の後ろには新しく一人の客が並んでいる。 大体恥ずかしいからなんだというのだ。会計がスムーズにいかなかったからといって、別にそれで僕のことを軽蔑する人間などいないはずだ。僕は勇気を出して、そのカードをカードリーダーの上にそっと置く。 一瞬で決済が終了した。そうして僕は新しい技術を自分のものにしたのである。購買意欲もマシマシである。 そういえば一緒にサラダチキンも買ったのだった。食べるのを忘れて職場の冷蔵庫に入ったまま。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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