幻の野菜

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ずっと引きこもって作業をしていたので、気分転換をしようと買い物に行く。ちょっと散歩もしたいということで、普段は通らない道とかを通ったりする。

いつも行く駅前のところとは別のスーパーは、やはり品揃えや価格帯も異なっており面白く、ついつい余計な買い物をしてしまう。イタリアンパセリが100円だったのでカゴに入れ、アスパラも安かったので購入。そんなふうに野菜コーナーを物色していると、のらぼう菜という野菜が目に入る。

時折実家でおひたしなどにして食べていたが、自分で買ったことはない。古い記憶を呼び返してみると、ちょっと苦味があって、茎の柔らかい野菜だったような気がする。イメージとしては菜の花に近いが、単に菜の花の記憶がのらぼう菜の記憶を塗り替えているのかもしれない。

これはちょっと試してみたいと思う。しかしそんなに野菜を買ってもすぐには食べきれないし、肉や魚介もカゴに入れた上で再検討すべきだと考え、一度野菜コーナーを離れてベーコンとタコをピックアップし、オリーブオイルやトマト缶などを補充して再び野菜のあるエリアに戻る。

戻った時にはもう決めていた。のらぼう菜を食べてみようと。家にない食材はなんだとか、明日の夕飯をどうしようとか、まあそんなことを考えながら食材を見ていても、頭の片隅にはのらぼう菜のことがずっとあったのだ。

そうして僕は野菜コーナーに並ぶ濃い緑色の野菜をカゴに入れ、レジに向かう。家に帰り、買った食材を冷蔵庫に並べていく。

のらぼう菜だと思っていた野菜は、ほうれん草だった。

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今年に入ってから嫌な夢ばかり見ると同僚に言ったところ、最近見た夢の話をしてくれた。 会社の人たちでドライブに行く夢。最初は僕が運転しているのだが、気がつくと社長が運転席に座っている。なぜだか全員緑色の服を着ているのだという。 「緑色の服」という飛び跳ね方が面白い。ドライブといったら結局は「どこに行ったか」がその話題の中心になってくるはずなのに、それが脇に置かれて「服の色」というおよそドライブとは無関係な関心が設定される。連想をいくら続けても決して到達し得ないイメージにたどり着いてしまうその夢のありようは、まさしく夢というほかない。 嫌な夢を見るくせにそれを記憶できない僕からすると、そうした鮮明なイメージを保持しているのはなんて幸せなのだろうと思ってしまう。夢の中ですら、ある種の筋道がなければそのほとんどを忘却してしまうのは著しい機会損失であると感じる。 あ、嫌な夢という話だったな。嫌な夢。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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