洗われる日、洗われない日

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本棚を注文してしまったので、部屋の片付けをしている。

背が高くなれば本棚が買える
仕事帰りにふと本棚が欲しくなり、色々と調べる。最初に検討したのが無印良品のスタッキングシェルフ。5×2のボックスを横並べにして、壁面に置く。そこに今の本棚には入っていない本や漫画、ウイスキーの瓶などを(洒落た感じに)並べ、余ったスペースに中...

服はちゃんと畳む。掃き掃除をする。溜め込んでしまった段ボールを捨てる。机の上に無造作に置かれた本をきれいに並べる。本棚をいい感じにする。掃除下手な人あるあるだけど、普段はやらないくせに一度始めると楽しくなってしまってやめ時がわからなくなってしまう。

しかし洗い場の掃除が億劫である。使った後に食器を全部洗うのが正しいことは重々承知しているのだが、それだけはどうしても後回しにしてしまう。

自炊をしようと思ってお湯を沸かしたり炒め物をしたりするとき、ふと訪れる手持ち無沙汰の時間に洗い物をするのが癖になっている。実際、これは結構時間の節約というか、無駄な時間を活用する有効な手段であるとは思う。

掃除の目的は、東東京最強のスーパーおしゃれ文化人部屋を作り上げることだ。POPEYEの「部屋とシティボーイ」特集で取り上げられても何の違和感もないような部屋にしたい。そんな夢想をしながら片付けをしているから、雑誌で取り上げられないような、生の生活空間にはどうしても手が及ばない。むしろ「壁に何の映画のポスターを貼ろうかなー」などと新たなアイテムの導入について考えてしまい、汚れた食器には関心が向かない。

結局通販ばかり
引っ越しの日。母親と車で新居へと向かう。三連休の初日ということもあり、高速はかなり混んでいた。着いたらすぐに、引っ越し業者がやってくる。クロネコヤマトの単身パック。容量が既に決まっているサービスだから、入り切らなかったものは車に詰めて持って...

洗濯機より先に買うべきものではない気がするが、僕の悪い癖で、必需品をどんどん後回しにしてしまう。

ちょっと前にコーヒー周りの器具を購入したとき、こんなことを書いた。どうやら僕は「掃除=生活感の抹消」だと思っている節があり、結果として実際に生活が営まれているまさにその場所をなぜだか軽視してしまうらしい。

そんなことを考えていたが、気がつけば一時くらいになっており、そろそろ寝なければ翌日に支障が出るだろうということで就寝。まあ明日の朝やればいいや……

もちろん寝坊。かろうじて日記を書けたくらいで、汚れた食器はシンクでひっそりと洗われる日を待っている。

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電車でゲルツェンというロシアの思想家の本を読んでいると、隣に六十歳くらいの男性が座ってくる。使い古されたリュックサックを膝の上に置いて、その中から分厚い本を取り出す。帆布のブックカバーで覆われたその本は、どうやら古い本らしく一つひとつの文字の密度も小さい。 他人の本を一瞥して再び読書に戻るも、五分くらいで心地よい眠気に襲われる。本当はここで一眠りできると幸せなのだが、もうあと数駅で乗り換えの駅に着いてしまうので、頑張ってこの眠気を追いやろうとあたりをちらちらと眺めやる。すると先ほどチラと見た隣に座る男性の本の中に「チェルヌイシェフスキー」なる文字があることに気がつく。 チェルヌイシェフスキーはロシアの思想家・小説家である。獄中で書いた『何をなすべきか』という本で、来るべき理想の社会主義世界を描き、それは同世代の、また後続の世代のロシア人に多大なる影響を与えた。 とはいえチェルヌイシェフスキーなる名前は、現代の日本でよく知られているわけではない。まさか山手線でその名前をお見かけするとは思っておらず、ただただ驚いてしまう。たまたま僕の隣に座った人が、どうやらロシアの社会主義(それも革命前の)を読んでいる……! 気になってしまい、もはや隠そうともせず隣人の本を読んでいると、予想通りというべきかそこにはゲルツェンの名前も登場する。山手線でたまたま並んで座った二人が、たまたまゲルツェンに関する本を読んでいる——これは奇跡と言っても言い過ぎではないと思う。 少し前に読んだ掌編を思い出した。アメリカの人々が語るごくごく小さな物語を集めた『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』所収の一編。 兎を飼っている友人の家を訪れた男が、思いつきで「もしこの兎が電気のコードを噛んで感電死したら教えてくれ」と呟く。その兎を夕食として調理したいという悪趣味な冗談だ。 しばらく経って、鉛筆を探しに席を立った友人が奇妙な顔で戻ってくる。本当に兎が感電死したのだという。そして友人は次のように言う。 「あなた、気づいているかしら」と彼女は言った。「あなた、さっきどんな願いでもかけられたってこと?」 「どういう意味?」 「さっき。兎を持って帰って夕食に料理するって言ったときよ」と彼女は言った。「さっきそういう可能性を口にしたでしょ。あれってべつに、兎じゃなくても、百万ドルでも何でもよかったのよ。何を願っても、あなたはそれを手に入れられたのよ。何を願っても、必ず願いが叶う、そう言う瞬間だったのよ」
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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