ツナマヨとともに思い出す

article

ツナマヨのことをずっと忘れていた。

小学三年から五年までの三年間は甲府で過ごした。父親の転勤を理由に引っ越したのだが、新しく買ったばかりの家が東京にあったから、子供心に長い旅行のような感覚があった。

僕が住んでいたアパートには同じような転勤族の一家が多く、つまりは同世代の子供たちが数多くそこに暮らしていたので、学校とは別に遊ぶ友達がたくさんいた。アパートの前は小さな公園のようになっていて、そこに行けば誰を誘うでもなく、一緒に砂遊びをしたり、蟻と戯れたり、ドッジボールをしたりして日が暮れるまでの時間を退屈することなく送ることができた。

きっかけは忘れたが、毎日のように遊んでいた仲間たちと一緒に、県のドッジボール大会に出ることになった。僕たちの中には野生的に運動ができるTくんもいたし(雨の中壁伝いにアパートの屋上に登っていた!)、小柄ながらも父親譲りの華麗な運動神経を持ったSくんもいたから、結構いいとこまでいけるんじゃないかと思っていた。僕だって並以上には強いボールを投げることができる。それに僕たちは毎日のようにドッジボールをしていたのだ。

大会に出ることが決まってからは、学校の体育館を借りてちょくちょく本格的な練習もした。その過程で僕は小指を骨折し(いつも使っていたソフトバレーボールとは異なるドッジボール用の硬いボールを使っていたのだ)、それでも大会に出たいと整形外科で号泣、ギブスに包帯をぐるぐる巻いて最強の助っ人よろしく出場が許されたのだった。

そうして迎えた大会の日。対戦相手はツナマヨネーズのCチーム。県下に名を轟かせていた強豪とはいえ、相手は三軍である。

しかし練習の段階でもうレベルが違うのだ。僕たちは個の力でもって相手を倒そうとする。早い球が投げられる人にボールを集め、全力投球。当たるか外れるか、それとも取られるかは個人の球の質次第といったところ。

しかしツナマヨは違う。テンポ良く素早いパスを僕たちの間隙に投げ込み続ける。内外野問わず、ボールの離れが早い。そうして反転する際に体勢を崩した選手の手足を的確に狙い、確実に仕留める。

完敗。

大会後、僕たちはツナマヨをほとんど悪の組織であるかのように捉えるようになった。僕たちは素人で、ツナマヨはプロ。ドッジボールを楽しむ僕たちと、厳しく訓練された坊主頭のゴリゴリ集団(多分坊主の人などいなかったが)。


そんなふうにツナマヨを思っていたことも、甲府で過ごした楽しい三年間のことも、ずっと忘れていた。

彼ら彼女らがツナマヨと名乗っていなかったら、この記憶は一生掘り返されることなく眠っていただろうことを思うと、その名付け親には感謝したい。

article
ランダム記事
つい数日前に夢を思い出せなくてウンタラカンタラと日記に書いたが、今日見た夢はかなり鮮明に覚えている。 僕は京都にやってきた旅行者。夜の木屋町で自転車を漕ぎながら夕飯を食べる店を探している。一通り飲食店を回ってみて何軒か候補をリストアップするものの、結局決めきれずに検索に頼る。するとその中の一軒であった安価なラーメン屋が飛び抜けて高い評価を受けていることを知り、そこを訪れることに決める。 そこは中華料理屋風に漢字二文字で名付けられたお店だ。路地裏で営業しているのだが、入り口となる扉はなく、店全体がテラス席のように外に開かれている。妖しげな赤や青の照明が至る所に置かれていて、異国情緒漂う雰囲気は『千と千尋の神隠し』で千尋の両親が豚に変わったあの屋台に似ている。 中にいる客は少なく、皆一人で丼を睨みつけて黙って箸を動かしている。どうやらわんこそばのようなスタイルらしく、ふと目についた男の席には何十個もの空いた丼が並んでいる。しかもその皿はどれも大きい。普通のラーメン一人前くらいの量を、男は全て平らげたらしい。 店員の男(容貌はどうも思い出せない)に案内されて、奥の方の席に案内される。メニューが見当たらずあたふたしていると、再び店員がやってきて「うちはメニューが一つなんですよ」と言う。「うちはね、乾麺のお店なんです。だからこんなに安く提供できる」 彼はそう言って壁面に貼られた紙を指さすと、そこにはコピー用紙に青のマジックインキ「30分500円」との文字が書かれている。 「麺は適宜補充しますから安心してください」男はそう言うと、ぐつぐつと煮えた大きな鍋が見える厨房へと姿を消す。 しばらく待っていると、つけ汁と麺が運ばれてきた。簀の上に乱雑に並んだやけに太いその麺は奇妙なほど角ばっている。普通の麺が円柱だとするならば、この麺は角柱と言ってよい。それに長さもまばらだ。小指ほどもない麺がある一方、始点も終点もわからないほど長い麺も混じっている。高野豆腐みたいに皺だらけであることも気になる。 一見したところつけ汁はオーソドックスなもので、適度な酸味と獣感が感じられるその匂いは食欲をそそる。まあとにかくお腹も減っているので、とにかく麺を口に運ぶことにする。 美味しくない。 嫌悪すべきまずさ、というほどでもないが、やはりあまり美味しくない。カップヌードルの麺の悪いところを増大させたような味で、一度乾燥させたことで生じる雑味が強調されている。太さの割にやけにスカスカな印象をもたらすその麺は、食べても食べてもお腹に溜まっていかないような感覚がある。 とはいえお腹が減っているので、勢いのまま一皿目を食べ終える。最後の一口を咀嚼し終えた瞬間、音も立てずに男がやってきて、黙って新しい麺の入った丼を置いて去っていく。 これが30分も続くのか。僕は憂鬱な気持ちになってその麺に目を向ける。麺量は一皿目よりも増えている。 ここで目が覚めた。今日は麺類を口にせず、白米を食べることにしよう。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

コメント

タイトルとURLをコピーしました