あなたの顔を思い出せない

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仕事終わりにオフィスの入口でエレベーターを待ち構えていると、脇にある傘立てに目がいく。ここには先日から放置されたままのビニール傘が刺さっている。

もう傘はなくさない
目が覚めたら部屋の中はどんよりとした灰色で、朝にならぬうちに起きてしまったのかと思う。しかし外から聞こえてくる雨の気配がその理由だと気づき、慌てて体を起こすと、家を出る時間までもう三十分とそこらしかない。慌てて日記を書き、コーヒーを淹れ、適...

しかし一日を通して雨とは程遠い天気で(朧げな記憶)、その帰り道に長い傘を持って歩くのはどこか恥ずかしい気がする。それにもう僕は折り畳み傘を手に入れたのだから、その傘を持ち帰らなければならない理由も特にない。

とはいえ悪しき先延ばし癖を抹殺するためには、こういうささやかな選択の機会からめんどくさい方を選ぶ習慣をつけていくべきだとも思う。どうしようか。エレベーターが五階までのぼってくるわずかな時間で、自分がどう振る舞うべきかを決定する必要がある。

そんな葛藤を抱きながら傘立てに近づいてみると、何本ものビニール傘が立てかけられている。この中から自分の傘を拾い上げるのは至難の業だ。しかも奴とは一週間ばかりご無沙汰しており、その特徴も全く覚えていない。

困難を前にして、その戦いから逃げることなどあってはならない。野球部時代に培われた野郎根性が奮い立つ。目をガン開きにして似たような透明の傘が並ぶ傘立てを凝視する。

しかしもう「降りる」ボタンは押してしまっている。いつもはその緩慢さに辟易とするエレベーターの上昇も、今日に限ってやけに張り切っているかのようだ。どれが僕の傘だ……? 思い出せ。あれは確か実家から持ってきたやつだ。いや、それはすでに失くしていて、最新の傘は近所のローソンで買ったやつか? 違う、そいつもどこかのタイミングで入れ替わってしまったのだっけ——

チーン。

タイムアップの音が静まり返ったエントランスに無常に響く。


最近ちまちまとこのサイトを改善していて、昨日はトップページのサムネイル画像に手を加えてみた。マウスオーバーすると画像が半透明になります。あ、あとサイドバーの画像も。

まあしばらくの間はこうやって手製の改修を加えていこうと思う。とはいえ近い将来それだけでは満足ができなくなってしまうだろうから、そんな時には友人に発注とかできたら嬉しい。そのためにもお金が欲しい。

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夜、最近アマプラに入った『十二人の怒れる男』を見ていたら、中盤くらいで激しい通り雨が降る場面があった。とはいえこの映画はほとんど一つの室内で展開される映画であるから、その雨は視覚的に表現されるより先に音として現れ、以降そのザラザラとした雑音が通奏低音のように映画全体の雰囲気を作り上げるのだが、おそらくは映画の中で雨の音が強調されると同時に現実の東東京でも雨が強まり、部屋の外から聞こえてくる重苦しい水しぶきのざわめきが映画の音と奇妙に反響しあって、なんと形容すべきかわからない奇妙な(とはいえ悪くない)視聴環境を作り上げていた。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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