もう傘はなくさない

article

目が覚めたら部屋の中はどんよりとした灰色で、朝にならぬうちに起きてしまったのかと思う。しかし外から聞こえてくる雨の気配がその理由だと気づき、慌てて体を起こすと、家を出る時間までもう三十分とそこらしかない。慌てて日記を書き、コーヒーを淹れ、適当な服を着て準備を整える。忘れ物はないかとポケットをパタパタと叩き、靴を履いて玄関の扉を開ける。

傘がない。

細かい雨が地面に打ち付けるしとやかな音と、屋根の上で膨らんだ雨粒がぴちゃぴちゃと立てる収まりの悪い音を聞きながら、そういえばこの前雨が降った日、帰りには雨が上がっていて、そのまま傘を職場に置いてきたことを思い出す。エレベーターに乗り込んだ瞬間傘を忘れていることに気がついたくせに、まあいっかといつもの楽天さでもって引き返さなかった過去の自分を恨むも、雨が止むことも傘が戻ってくることもない。

雨はそんなに強いわけでもなく、このまま傘をささず、アメリカ映画の探偵よろしくコートの襟を立てて職場に向かってやろうかとも考えたが、その行為が似合うほどの頑強な筋肉も黒塗りの車も持ち合わせておらず、ただ貧相ななりをした男がびしょびしょに濡れたまま満員電車に乗り込む姿は滑稽に思え、近所のコンビニで折り畳み傘を購入して仕事へと向かうことにする。それが思いの外高額で、ならばちょっと洒落た傘を買う未来もあったのだと考えるとちょっと落ち込んでしまった。

article
ランダム記事
中二の終わりくらいに人生で初めて学習塾に通い始めると、すぐに駿台模試を受けさせられた。ちょっと緊張しながら会場の高校に行って、試験時間長いなあなどと思った記憶がある。でも数学とか全然わからなくて。やっぱり中一から早稲アカに通ってるやつとかすごいなとか思ったりもしたんだけど、まあ別に俺そんなに熱意とかないしそんなに勉強もしてないしなとあんまり深く考えずに野球ばかりやってその模試のことはすぐに忘れてしまった。 一ヶ月くらい経ってその模試が返却された。で、びっくり。めちゃめちゃ国語の点数が良かった(全国50番とかだった。母数は忘れたけど)。野球の才能が全くないことは痛いほどわかっていたから、安易な俺は勉強の方に舵を切ろうと思った。受験勉強なんて全く考えてもいないのに、毎日勉強ばかりしている奴より俺の方ができるじゃん、みたいな。 まあそれはともかくとして、その時俺は自分のことを国語の天才だと思った。国語の才能に満ち溢れていると思った。文章を書くのが誰よりも得意で、将来はそれで食っていくんだろうなと。坂本勇人にはなれなそうだし、まあ次点でそれもありか、みたいなことをうすらぼんやりと考えた。 で、13年くらいそれを引きずっていたんだけど、社会人になって今俺はそんなに文章を書けないぞと痛感している。そうした絶望を感じてもおかしくないタイミングは幾度もあったんだけど(大学受験の模試で偏差値35とかだったり、まあそんなこと)、なんかここ数ヶ月でその思いを強くしている。うまくいえないんだけど、俺は適切な言葉を適切なタイミングで使うことができない。「東」を伝えるために、「北海道が上の方に位置する地図の右の方」みたいなまわりくどい言い方しかできない。 だから職場でチャットとかをするのが苦手。伝達すべき情報をまとめ上げることにものすごくストレスを感じてしまう。本当はただの一言で伝えられることを、300文字くらいダラダラと論点のわからない文章を書きまくって曖昧な伝達を済ませる、みたいなコミュニケーションになってしまう。そのくせ語尾とか細かい言い回しには気を配ってしまうから、無駄に時間と体力を使う。伝わらなくてもいいから、文章が下手だとは思われたくない。名文家自認が止まらない。 日記って感じでは無くなってしまったので、雑文置き場に投げておく。けど眠いのでここでやめ。続きは明日書くかもしれない。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

コメント

タイトルとURLをコピーしました