もう傘はなくさない

article

目が覚めたら部屋の中はどんよりとした灰色で、朝にならぬうちに起きてしまったのかと思う。しかし外から聞こえてくる雨の気配がその理由だと気づき、慌てて体を起こすと、家を出る時間までもう三十分とそこらしかない。慌てて日記を書き、コーヒーを淹れ、適当な服を着て準備を整える。忘れ物はないかとポケットをパタパタと叩き、靴を履いて玄関の扉を開ける。

傘がない。

細かい雨が地面に打ち付けるしとやかな音と、屋根の上で膨らんだ雨粒がぴちゃぴちゃと立てる収まりの悪い音を聞きながら、そういえばこの前雨が降った日、帰りには雨が上がっていて、そのまま傘を職場に置いてきたことを思い出す。エレベーターに乗り込んだ瞬間傘を忘れていることに気がついたくせに、まあいっかといつもの楽天さでもって引き返さなかった過去の自分を恨むも、雨が止むことも傘が戻ってくることもない。

雨はそんなに強いわけでもなく、このまま傘をささず、アメリカ映画の探偵よろしくコートの襟を立てて職場に向かってやろうかとも考えたが、その行為が似合うほどの頑強な筋肉も黒塗りの車も持ち合わせておらず、ただ貧相ななりをした男がびしょびしょに濡れたまま満員電車に乗り込む姿は滑稽に思え、近所のコンビニで折り畳み傘を購入して仕事へと向かうことにする。それが思いの外高額で、ならばちょっと洒落た傘を買う未来もあったのだと考えるとちょっと落ち込んでしまった。

article
ランダム記事
ブログ文体というものがある。 まあ文体というのが何を指すのかは明確でないけれど、なんというか「あ、この文章はブログのために書かれたものだな」と思えてしまうような書き方というのは確かにある。 一言で言ってしまうとそれは「自己ツッコミ」を繰り返す文章というものだ。例えば、 って、誰も読んでないか(笑) とか モテない俺は(モテないとかいうからモテないんだぞ!) みたいなやつ。 これは過剰な例かもしれないけれど、適当な言説を振りまいた挙句に防波堤を敷き、自分の言葉から責任を取り外してしまうような文章がある。 僕はこうした文章が嫌いだ。好き勝手言うのならば自信満々に好き勝手やっていてほしい。ちょっと自信なさげなそぶりを見せたところで、そもそもそれはブログにすぎないのだから、超然とした態度で書いたところで問題がないはずだ。 これまであまりなかったことだけれど、あんまり書くことが思いつかず、悪口を書いてしまった。あまり望ましいことでもないので、ここらで切り上げることにしたい。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

コメント

タイトルとURLをコピーしました