プルースト創設の大学

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大森のブックオフを一時間ほどぶらぶらと散策していると、『失われた時を求めて』が三冊ずつ全巻揃っていることに気が付く。あとヴァレリーやネルヴァルらの著作も三冊ずつ。合計四、五十冊ほどのフランス文学が、それほど広くもない店舗に並んでいる。

どれも新品同然の綺麗な本で、新刊書店でもなかなかお目にかかることのできない圧巻の光景。こころみに一冊取り出して開いてみると、2023年に東京駅の丸善で買ったことを示すレシートが挟まっている。

本の状態からして、おそらく同じ人が売りに出したものだろうと推測する。しかしその人物について色々と想像をたくましくしてみても、彼/彼女の像はぼんやりとも描かれない。一体どんな人物が『失われた時を求めて』を三冊ずつ購入し、すぐに売却するのか。

京都のブックオフで『新島襄自伝』が何冊も並んでいる光景を思い出す。同志社大学の入学式で新入生に配られるらしいその一冊は、結構な数が古書店に流れ込むことになるらしいとの話をよく聞いた。そこから気ままに連想をしてみると、プルーストが創設した大学が大田区に存することになってしまう。仮にそうだとしたら、跡を継いだ人間(あるいは有能な側近)がうまくやったのだと思う。

そういえばレシートが挟まっていたのだった。勝手な想像は具体的な事物によって早々に棄却されてしまうものだ。

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帰り道、駅前のドラッグストアで綿棒を買う。 つい一ヶ月ほど前に開店したばかりのこの店は、一度シャンプーを買いに行っただけで店内をこまめに物色したことはない。ドラッグストアの面積としてはかなり小さめで、通路は狭くそのくせシャンプーの種類は多いから、しゃがみこんで棚の下の方に並べられた商品を選んでいると、そこを通り抜けようとする客の邪魔になったりもする。商品は所狭しに並べられており、さらに売り場は二階に分かれているので、見た目の狭さに反して商品自体の数はそれなりに多い(もちろんただの客としては客観的にそんなことがわかるわけもないのだが)。 さて綿棒を探して店内をうろついてみるのだが、なかなかどうして綿棒の置いてありそうなコーナーにすら辿り着けない。洗濯用品、シャンプーやリンス、種々の薬……。どれも違うなあと同じ通路を幾度も通りすぎてみるものの、綿棒の気配すらもなかなか掴むことができない。二階の端の方にカテゴリー分けからはみ出したようなエリアがあって、入念にチェックしてみるものの、そこに綿棒の姿はない。 そもそも綿棒のカテゴリーはなんなのだ。直感的にドラッグストアにあるべき商品であることはわかるのだが、その用途が正確に定まっていないせいか、どうもピンとこない。ノーカテゴリーの備考欄にないことだけはわかるのだが、綿棒の居場所を位置付けるのは案外難しいような気がする。 そうやって何の商品も持たず(持つことができず)店内をうろちょろしていると、新店舗だからか全員が「研修中」との名札をつけている店員たちに怪訝な目を向けられているような気がしてくる。一度店を出てコンビニでも探してみるか——。心の折れた僕は、戦利品を持たずにトボトボと帰路につこうとする。 すると店先に、唯一確認していないエリアがあることに気がつく。絆創膏、包帯が並ぶその棚に、僕は綿棒が呼ぶ声を聞き取る。パッと一覧しただけでは発見できなかったので、通行の邪魔を覚悟でしゃがみこみ端から棚を探っていくと、ずっと探していた綿棒がそこにある。 そうして僕は綿棒を手に入れたわけだが、ただあの棚のカテゴリーは一体何なのだろう。医療用品、とか? なんだか少し違和感を覚えながら、これは医療活動なのだと言い聞かせて耳の掃除をするのだった。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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