プルースト創設の大学

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大森のブックオフを一時間ほどぶらぶらと散策していると、『失われた時を求めて』が三冊ずつ全巻揃っていることに気が付く。あとヴァレリーやネルヴァルらの著作も三冊ずつ。合計四、五十冊ほどのフランス文学が、それほど広くもない店舗に並んでいる。

どれも新品同然の綺麗な本で、新刊書店でもなかなかお目にかかることのできない圧巻の光景。こころみに一冊取り出して開いてみると、2023年に東京駅の丸善で買ったことを示すレシートが挟まっている。

本の状態からして、おそらく同じ人が売りに出したものだろうと推測する。しかしその人物について色々と想像をたくましくしてみても、彼/彼女の像はぼんやりとも描かれない。一体どんな人物が『失われた時を求めて』を三冊ずつ購入し、すぐに売却するのか。

京都のブックオフで『新島襄自伝』が何冊も並んでいる光景を思い出す。同志社大学の入学式で新入生に配られるらしいその一冊は、結構な数が古書店に流れ込むことになるらしいとの話をよく聞いた。そこから気ままに連想をしてみると、プルーストが創設した大学が大田区に存することになってしまう。仮にそうだとしたら、跡を継いだ人間(あるいは有能な側近)がうまくやったのだと思う。

そういえばレシートが挟まっていたのだった。勝手な想像は具体的な事物によって早々に棄却されてしまうものだ。

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今日も夏季休暇なので、午後から国立新美術館でやっているテート美術館展に行く。同僚が折に触れてこの展覧会の話をしていたので、知らず知らずのうちに興味を抱いていたらしい。 平日の日中だというのに、かなりの人混み。入るのにもちょっと時間がかかる。外国人観光客らしき人も多い。 壁際に掛けられた絵を見ていくのだが、別に順路などないのに人の流れができていた。気に入った絵の前ではしっかり立ち止まって鑑賞したいのだが、なんとなく進まないといけないような気持ちになってしまうのが辛い。写真を撮るミッションを課せられている人も多い。まるでアトラクションみたいだ。 近い将来、美術館に順路を守る義務が設けられる想像をした。ベルトコンベアに乗って、等速度で機械的に絵を視界に収めていく。 また悪口を書いてしまったが、作品はどれも面白かった。とりわけ気に入ったのは、キャサリン・ヤースという人の「廊下」という写真作品。若干縦長の構図で、中央に向かって伸びていく廊下を映す。僕の好きな構図だ。写真自体には何かしらの加工がなされていて、遠近感が狂ったような感覚。 美術館の何が良いかって、あの空調とそこを流れる緩やかな時間だと思う。東京ど真ん中の特別展に、後者を期待するのは筋違いだと反省。 展覧会を出ると、文句なしの夕暮れ。美術館の近くにあったネオンサインの光るお店に心惹かれる。何のお店だっけ。ジャズバー、というにはちょっと派手すぎるような。それはともかく、一人でここに入る勇気はまだ持ち合わせていない。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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