イケメン&バー

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午前中に鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』を見て、夕方からキネカ大森に『ゴーストワールド』を見にいく。

なんやかんやで初めて訪れる。西友やブックオフが入った施設の五階にあり、フィットネスクラブや自習スペースのあるフロアの一角を占めているのが面白い。娯楽の在り方として、それらは決して相容れない感じがする。

映画はとにかく前半が良かった。パンクロックに合わせて頭を振るイーニドの乱れた髪型が最高。

ただ後半になるにつれ、出たとこ勝負というか、視点人物がコロコロと変わる中でよくあるすれ違いのコメディみたいになっていくのはどうなんだろう、と思う。あとはラスト。ちょっと象徴的な意味に溢れすぎているような感じもした。

夜にも一本映画を見た。『1987、ある闘いの真実』という韓国映画。情報の出し入れが抜群に上手く、ちょっとこれは敵わんなあという気持ちになる。誰が敵わんのかはよくわからない。


そういえば映画館からの帰り道、夜の大森を歩いていると「イケメン&バル」と書かれた看板を見つけた。まあそういうお店は巷に溢れているだろうが、それをこういう直接的な表現で書くのは珍しいなと思う。しかしよく見ると「イタメシ&バー」であった。

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仕事終わり、駆け足で電車に飛び乗って渋谷へ向かう。ヒューマントラストシネマ渋谷でビクトル・エリセの『エル・スール』を見るのが目的。 客入りは八割くらい。一人で着ている人が大半で、皆無表情で座席に着く。スーツを着ている人こそ少ないものの、仕事終わりの人が多いような感じがする。当たり前だが土日のシネコンみたいに前のめりで娯楽と向き合おうとしている人が多くいる映画館とは全然違う。 予告編の終わりがけ、僕の座っている席の列に一人の女性がやってくる。腰を上げてスペースを確保するが、その隙間を通り抜けることなく、僕の手前で立ち止まり歩んできた方向と反対に向き直る。自分の動作が無駄であったような気がしてちょっと恥ずかしくなり、誰に対してでもなくぎこちない笑みを浮かべて気まずさを緩和しようと試みる。 僕が腰を下ろした瞬間、その女性は再び反転し僕の前を通り抜けようとする。僕は座席をトランポリンみたいに使って慌てて立ち上がりその女性を奥に通す。すると彼女は僕の隣に座っている男性に何やら小言で話しかける。「席を勘違いしてしまって」と男性が言う。 「席を勘違いしてしまって」と繰り返し男性は言う。その声は上ずっている。「NO MORE 映画泥棒」の映像が、彼の焦りを掻き立てるように館内に響く。 あんなにも長い時間として認識される予告編の時間を、彼は焦りとともに一瞬で乗り越えたのだと思う。 『エル・スール』はいい映画でした。そりゃそうか。ちょっと泣きそうになった。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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