そうして僕はいつもより長く眠ってしまう

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平日の生活は結構ルーティン化しているから、いつもより仕事が30分以上長引くとその規則が脅かされた気がしてイライラしてしまう。とはいえその腹立ちをぶつける先はあまりなく(人に当たるのは人間として失格だし、物に当たるとのちのち後悔することは高校生の頃にすでに学んでいる)、夜更かしをして無理やりやるべきこと/やりたいことをこなしてやろうと力んで帰路に着くことになる。まあ呪詛を吐きながら仕事をすることはあるが。

しかし家に帰ってご飯を食べ、風呂に入ってさあいよいよ一日が始まるぞとデスクに着いた瞬間、抗うことのできない睡魔が襲ってくる。許せない。本も読まず、映画も見ず、文章も大して書かずに一日を終えてしまったらそれこそ僕の存在価値なんてものは無くなってしまうような恐れを抱くが、その危機感の度合いに関わらず生理的現象はそれ以上に僕の身体や頭を規定するのであって、無理をして読んでいる本の文字が目を滑っていくのに気がつくと、疲労感と情けなさと明日への期待とともにベッドに倒れ込んで電気を消すのである。

そうして僕はいつもより長く眠ってしまう。

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仕事終わり、駆け足で電車に飛び乗って渋谷へ向かう。ヒューマントラストシネマ渋谷でビクトル・エリセの『エル・スール』を見るのが目的。 客入りは八割くらい。一人で着ている人が大半で、皆無表情で座席に着く。スーツを着ている人こそ少ないものの、仕事終わりの人が多いような感じがする。当たり前だが土日のシネコンみたいに前のめりで娯楽と向き合おうとしている人が多くいる映画館とは全然違う。 予告編の終わりがけ、僕の座っている席の列に一人の女性がやってくる。腰を上げてスペースを確保するが、その隙間を通り抜けることなく、僕の手前で立ち止まり歩んできた方向と反対に向き直る。自分の動作が無駄であったような気がしてちょっと恥ずかしくなり、誰に対してでもなくぎこちない笑みを浮かべて気まずさを緩和しようと試みる。 僕が腰を下ろした瞬間、その女性は再び反転し僕の前を通り抜けようとする。僕は座席をトランポリンみたいに使って慌てて立ち上がりその女性を奥に通す。すると彼女は僕の隣に座っている男性に何やら小言で話しかける。「席を勘違いしてしまって」と男性が言う。 「席を勘違いしてしまって」と繰り返し男性は言う。その声は上ずっている。「NO MORE 映画泥棒」の映像が、彼の焦りを掻き立てるように館内に響く。 あんなにも長い時間として認識される予告編の時間を、彼は焦りとともに一瞬で乗り越えたのだと思う。 『エル・スール』はいい映画でした。そりゃそうか。ちょっと泣きそうになった。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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