隙があるのも格好いいと思う

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仕事に向かう電車に乗っていると、やけに格好いい六十歳くらいの男性が隣にやってくる。背が高く、短く刈り込んだ白髪は美しい。薄いオレンジ色のジャケットはパリッと仕立てられており、その中に来ている青いシャツも品が良い。

何よりも姿勢が良い。揺れる車内ではほとんどの人がバランスを崩しあたふたと安定感を失うのだが、彼だけは安定した地面に立っているかのように、微動だにすることなくまっすぐと立っている。

どんよりと暗い雰囲気の漂う車内において、この男性の存在感は傑出していた。隣にいる僕が少し緊張してしまうくらいだ。

最寄駅につくと、その男性も電車を降りる。男性は軽やかな手つきで内ポケットから小さな革小物を取り出し、読み取り口にタッチをする。突然小さな震えのような音が響き、ゲートは開かない。残金不足だったらしい。初めて見せたその男性のあたふたとした様子を横目に見つつ、僕は改札をくぐり抜けて仕事に向かう。

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昨日から旅行に来ている。海の近く。部屋からは水平線が見える。この海を見て、それでも海賊になろうとするルフィはすごい。 昨晩寝る前に「かっこいいものしりとり」をした。各々がかっこいいと思うものを挙げて言葉をつないでいく。リンカーンの企画「朝までそれ正解」のしりとりバージョンみたいな感じ。 「それは本当にかっこいいのか?」と審議が行われるのが面白い。チョッパーはかっこよくないけれど、ウソップはかっこいい、みたいによくわからないところに線が引かれるその適当さも癖になる。あとは圧倒的な正解を出した時。「ず」から始まるかっこいいものとして、ズラタン・イブラヒモビッチが出てきた時は興奮して踊りださんばかりだった。 結局夜中に二時間くらいやってしまった。本当に朝までやってしまうところだった。久方ぶりに緩やかに流れる時間が戻ってきたような気がして、懐かしくなる。意味も目的もない会議とかが会社でもできたらどれだけ楽しいか、そんなことを考える。 ただこの遊びには弊害があって、本当に一日中「かっこいいものしりとり」のことばかり考えてしまう。これは寝る前の1日で最も緩い時間にやるからその良さが出てくる類の遊びであって、真昼の海辺でこんな遊びをするのは機会の損失かもしれない。 そんなこと考えたくないね。損失なんかしていないよ。と曖昧な結論。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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