寒さに慣れる(ふりをする)

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仕事終わりには結構雪が降っていた。この冬にちゃんと目にした雪はこれが初めてだ。風も強く、ちょっとした吹雪だなと思ったが、「こんなもの雪が降ったうちには入らないよ」だとか「これで吹雪と思ってるとか笑える」とか言ってくる脳内の雪国人が馬鹿にする声が聞こえてくるので、駅から家に帰るまでの道中、シャリシャリと雪の混じった水たまりに足を突っ込もうとも意に介せず、いつもより背筋を伸ばして余裕綽々の表情を取り繕いながら大股で歩く。家に着くや否や浴槽にお湯を張り、それを待つ間ブルブルと震える僕の体を電気ストーブで温めていたら、どうにもその場から離れられなくなり、お湯が少し溢れ出してしまった。

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ふと銀行口座の残高を調べてみると、残り数百円しかない。しかも明細によれば、二度ばかり「緊急補填金」と称された多額のお金が振り込まれており、それでマイナスがプラスに転じているにすぎない。 こんなにお金を使ったっけなと思いながら、緊急補填金について友人に訊ねてみると、それは本当にまずいと言われる。すぐに支払わないとほとんどの所有物が差し押さえられるし、家族や会社にその情報も知らされるのだという。 再度明細を詳しく見てみると、どうやら僕は化粧品に多大なるお金を使ったらしい。そういえば化粧水と乳液を買った記憶がある。確か普通のドラッグストアではなく、銀座の一等地でエルメスやらルイ・ヴィトンやらが並ぶ一角にある高級感に溢れたお店で買ったような気がする。 クレジットカードの引き落としは今日で、しかもその額は明らかに残高を超えているから、もうどうすれば良いのかわからずにテンパってしまう。こんな災いが自分の身に降りかかったことなどどうにも現実のことには思えず、突然冷静になってこれが夢らしきことに気がついた瞬間、ふと目が覚めた。
山口宗忠|Yamaguchi Munetada

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